Featured InstrumentsOrganLyricsNo.558「夏目漱石 初秋の一日」青空文庫URL : http://bit.ly/qH5C1K汽車の窓から怪しい空を覗いていると降り出して来た。それが細かい糠雨なので、雨としてよりはむしろ草木を濡らす淋しい色として自分の眼に映った。三人はこの頃の天気を恐れてみんな護謨合羽を用意していた。けれどもそれがいざ役に立つとなるとけっして嬉しい顔はしなかった。彼らはその日の佗びしさから推して、二日後に来る暗い夜の景色を想像したのである。 「十三日に降ったら大変だなあ」とOが独言のように云った。 「天気の時より病人が増えるだろう」と自分も気のなさそうに返事をした。 Yは停車場前で買った新聞に読み耽ったまま一口も物を云わなかった。雨はいつの間にか強くなって、窓硝子に、砕けた露の球のようなものが見え始めた。 Bookmark |
20111002 国木田独歩_詩想:丘の白雲 » |