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611

2011-11-23「芥川龍之介 影」

from ALBUM : 「2011-1120111123 芥川龍之介_影
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Lyrics

No.611「芥川龍之介 影」

青空文庫URL : http://bit.ly/vrWURm

横浜。
日華洋行の主人陳彩は、机に背広の両肘を凭せて、火の消えた葉巻を啣えたまま、今日も堆い商用書類に、繁忙な眼を曝していた。
更紗の窓掛けを垂れた部屋の内には、不相変残暑の寂寞が、息苦しいくらい支配していた。その寂寞を破るものは、ニスののする戸の向うから、時々ここへ聞えて来る、かすかなタイプライタアの音だけであった。
書類が一山片づいた後、陳はふと何か思い出したように、卓上電話の受話器を耳へ当てた。
「私の家へかけてくれ給え。」
陳の唇を洩れる言葉は、妙に底力のある日本語であった。

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