Featured InstrumentsPRISM, Bass, KickLyricsNo.611「芥川龍之介 影」青空文庫URL : http://bit.ly/vrWURm横浜。 日華洋行の主人陳彩は、机に背広の両肘を凭せて、火の消えた葉巻を啣えたまま、今日も堆い商用書類に、繁忙な眼を曝していた。 更紗の窓掛けを垂れた部屋の内には、不相変残暑の寂寞が、息苦しいくらい支配していた。その寂寞を破るものは、ニスののする戸の向うから、時々ここへ聞えて来る、かすかなタイプライタアの音だけであった。 書類が一山片づいた後、陳はふと何か思い出したように、卓上電話の受話器を耳へ当てた。 「私の家へかけてくれ給え。」 陳の唇を洩れる言葉は、妙に底力のある日本語であった。 Bookmark |
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